PCB等のPOPsによる地球環境汚染の実態と国際的な課題（1)

摘要

ポリ塩化ビフェニル（PCB)は，高い化学的安定性を有し， 耐熱性や絶縁性が高く，難水溶性で親油性であることから，ト ランスやコンデンサーなど電気機器の絶縁油，熱交換器の熱媒 体，ノンカーボン紙などの多様な用途に利用されてきた。この PCBによる，環境·生態系における汚染が広がっていることを 世界で初めて発見したのは，スウェーデンの研究者S. Jensen である。Jensenらの研究グループは，1964年からDDT等の有 機塩素系農薬によるヒトや野生生物の汚染調査を実施していた が，当時先端の分析機器として導入されたガスクロマトグラフ (GC)のクロマトグラム上に，既知の農薬等とは異なる複数の 未知のピークが頻繁に検出されることを発見した。さらに，そ れらの未知のピークは，オジロワシ等の食物連鎖の高次生物ほ ど高くなること，また，DDTが一般的に利用されはじめる以 前の古い保存試料からもその痕•跡が認められることなどの新た な事実を発見した。これらの観測結果から，未知の化学物質が 環境中に広く分布し，食物連鎖を介して生態系の野生生物に濃 縮•蓄積していることが示唆された。Jansenらは，GCに質量 分析装置を連結したGC-MSを用いて，オジロワシから検出さ れた複数の未知のピークが,PCBの主要異性体であることを 突き止めた。このようなPCBによる地球環境汚染等について， 愛媛大学の高橋真博士および田辺信介博士らは課題として取りまとめている。