バイオガスの臭気成分の生物学的な除去方法に関する研究の進展

摘要

有機性廃棄物のメタン発酵および産業排水等の嫌気性処理は，ますますその対象範囲が拡大している。近年では，都市ガスや輸送用燃料等の高度な燃料ガスとしての利用や，都市の過密地域への処理施設の導入が試みられており，処理にともなって発生する臭気ガス成分の管理は重要性を増してきているといえる。バイオガスには，主としてメタン,二酸化炭素，酸素，窒素，硫化水素が含有される。硫化水素は臭気だけでなく，人体に対する強い毒性を持ち，また燃焼によってSOxを発生させる。産業排水処理の特殊なケースでは，高濃度の溶存硫化水素による阻害や，高濃度硫化物が生物膜から細胞外ポリマーを溶出させ，強度を低下させるといった現象も確認されている。このような理由から，硫化水素はバイオガス中の成分のうち最も除去すべき物質である。脱硫操作には，主に3つの方式-乾式脱硫(酸化鉄粉)，湿式脱硫(水·アルカリ洗浄)，生物脱硫が存在する。生物脱硫方式は薬品等の添加が不要で，最も簡素なシステムでは微量の空気の供給だけで済むため，高濃度の硫化水素を含有するバイオガスに対してはコスト面で有利になりうることから，徐々に国内外の施設で採用が広がりつつある。これまで生物脱硫方式は，科学的·技術的な蓄積が少なく，不安定なシステムといった印象を持たれる向きがあった。しかしながら，最近では幅広く研究が行われるようになった結果，そのメカニズムや反応の制御に関わる知見が体系化可能な水準まで蓄積されたといえる。以下では，バイオガスの生物脱硫について，基本的な原理，制御項目や微生物に係る研究の進展をまとめた。