健全な水環境の保全·創出に資する生物応答試験法の特徴と今後

摘要

本特集のタイトルは「化学物質の生態リスク評価と水環境管理の現状と今後」であり，その背景には2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議（WSSD)において掲げられた「2020年までに化学物質の製造とその使用による人の健康と環境への重大な悪影響の最小化を目指す」という目標の存在がある。この目標の実現に向けた活動を推進するためには.生物を用いた水質評価やその結果を利用した水環境の管理について，現状と課題を広く知っていただくことが必要であろう。本特集のタイトルの前半が示すように，新たに開発される医薬品，農薬をはじめ多様な化学物質の上市にともなう環境への負荷やその影響について，それぞれに対して定められる手法やガイダンスに基づいて評価が行われている。実験室において該当物質の魚類急性毒性，ミジンコ類急性遊泳阻害，そして藻類成長阻害をそれぞれ測定して生態影響の評価が行われている。タイトルの後半は「水環境管理」である。前述した「……環境への重大な悪影響の最小化を目指す」を水環境において実現するためには，公共用水域に排出された化学物質が水環境中でどのように挙動し，多様な物質との共存下で生態系に対してどのような影響をもたらすかの知見が必要となる。公共用水域での化学物質の希釈効果や生息する生物種の違い，物理的な環境の違い，さらに多様な物質との複合影響などを考慮すると，前述した医薬品，農薬，化学物質の単独での生態影響評価の結果との距離感は少なくないようにも思われる。