国策の最終的な選択基準としての思想•哲学，倫理観

摘要

川内原子力発電所1号機が再稼働しました。原子炉臨界，タービン併入，発電機併入(送電開始）と進み，中央制御室内で拍手する九州電力の職員の姿も報道されましたが，どこか微妙な違和感がありました。公益事業を営んでいるはずの彼らが，多くの鹿児島県芪ゃ国民に嫌がられて公害事業を再開するかのように思われながらこれを行わなければならなかったのですから，ロケットの打ち上げ成功を喜ぶオペレーションルームの光景とは違います。結局，「やめてほしい」，「待ってほしい」と言う人々にとつてはそれが無視されてしまったという点で，一方，九州電力にとつてはそのような多くの顧客や国民の思いに逆らつてしまったという点で，川内の再稼働は，Lose-Loseのイベントとなってしまいました。福島事故後，「原子力を選ぶか否かは，科学でも経済でもない，最終的には，生き方の選択であり,哲学とか倫理学の問題に行き着くはずだ」との意見が聞かれました。川内の再稼働をめぐる世論を見て，この前段には，「規制基準の適合でもない」，と付け加えてもよいのかなと感じました。支持や推進をすろにしろ，反対をすろにしろ，自分なりの思想·哲学，倫理観をもつことは重要だと思います。私も長年原子力に関わってきた中で，福島事故が発生する前から，いろいろ自問自答を繰り返してきました。2014年8月号から連載を続けてきた「原子力発電所の安全審査と再稼働」は，一応，今号をもつて本論を締めくくりたいと思いますが，それにあたり，本テーマにちなみ，これまで私自身の心中に去来した考えなどをいくつか述べてみたいと思います。