小は大を制する

摘要

以前このコラムで，生物界におけるテトラピロ ール構造の重要性について紹介したが，今回はその中でもメタン生成で用いられる補酵素F430 に関わる最近の話題について述べたい。テトラピ ロールとは，ピロール環が4つ繋がって環化し た化合物で，クロロフィル，ヘム，シロヘム， F430などといった生物によるエネルギー獲得プ 口セスに深く開わる分子として，それぞれ重要な 働きをしている。生物界においてテトラピロール は，還元的な環境に暮らす微生物から，私たちの ような複雑かつ酸化的な環境に暮らす動物に至る まで遍く分布しているというのも特徴だ。これら のうち，クロロフィル，ヘム，シロヘムのテトラピロールはそれぞれ二重結合を10個，11個，9 個もつのに対し，補酵素F430のテトラピロール がもつ二重結合は5個にすぎない。つまり.こ れらのテトラピロールの中でもF430が最も還元 的である。そして，メタン生成という非常に還元 的なエネルギー代謝で鍵となる反応を担っている。そういった事実は補酵素F430が，生物のェネル ギー獲得に利用されるテトラピロールの中でも最 も還元的な環境に適応したものということだけで なく，テトラピロールの起源が生命の始まりにか なり近いところまで遡る可能性も示唆している。