技能継承により施工された土壁を有する住宅の室内環境評価

摘要

This report discusses a numerical analysis of a reconstructed house with a strong tsuchikabe (wall made of a mixture of soil, water, sand, and straw) and an ordinary house with a tsuchikabe that simulates wattle. The authors intend to re-evaluate the usefulness of soil as a building material, not as part of a building meant for conservation, and use these results to promote the inheritance of the sakan craft.%本報の結果を以下にまとめた。1)自然状態であれば，左官技能者が高度な技能で施工する木舞人り木舞下地壁は土の量を問わず特性を十分利用できる。土壁住居室内の温度変動は温度外気振幅に対して中塗り土充填壁が約2割(位相3時間)，木舞下地壁が約5割(位相5時間)に低減できるが，相対湿度変動は外気振幅と大略一致するために，室内の温湿度変動の差が室内環境に与える影響は少ない。2)本報の土壁住居室内は冬期の外気条件(低温高湿)に等しく変動する。自然状態の冬期の平均室温(5.3℃)は外気の平均気温に対して約0.5℃だけ高い。相対湿度は室温の低下に伴い高湿(約85%RH)となった。本報の土壁は現代住宅で必要とされる断熱性能が期待できないため，ゼロエネルギー住宅等の省エネ住宅とするためには壁体の断熱補強の検討を行う必要がある。3)木舞下地壁室内と中塗り土充填壁室内の暖房負荷は同等である。冷房負荷は夏期の日射負荷の影響で木舞下地壁室内が中塗り土充填壁室内の約1.4倍となった。冷房運転に伴う木舞下地壁面の放湿量は中塗り土充填壁面の約1.2倍となるが，居室の湿気容量と換気量に対して少ないため，過重な潜熱負荷が発生しない。4)冷房期の壁表面温度は室温より高く，体感上快適とならない可能性があるため，日射遮蔽を検討する必要がある。暖房期は明け方(6:00～9:00)の壁表面温度が室温より最大で5.1℃低いため，断熱施工や暖房運転には適切な方法が必要である。蔵の恒温・恒湿性(自然室温)という室内環境維持の特性は左官技能者が伝承技能で施工した木舞を有する壁体でも得られる。貯蔵施設等で重用される堅牢な中塗り土充填壁が換気を必要とする生活空間に及ぼす熱湿気性状への影響は在来軸組工法の木舞下地壁と大差ないため，長工期•高コストが予測される中塗り土充填壁は,左官技能者が施工する木舞下地壁に代替することが可能である。筆者らはこの結果を踏まえ，今後の左官技能の継承に努めたい。