人と車と交通環境としての道路: 経験法学の視点から

摘要

私は弁護士となって60年になる。弁護士60年の実務経験から、経験法学（リアリズム法学）を学ぶ。経験法学とは、従来の概念法学（法解釈学）が法律の解釈によって、裁判官が判決をする判断は、法律(Rule)を大前提、事実(Fact)を小前提とする三段論法に従い、法律(R)を事実(F)に適用してなされると考えられてきた。しかし裁判の判断過程（Judicial decision-making process)は、概念法学がいうような単純なものではない。むしろ、裁判官のパーソナリティー（Personality)に、法律と事実とその事件の筋との諸要素の刺戟(Stimuli)を受けて判決(D)がなされる。その場合の裁判官の判断枠組(Frame of reference)は裁判官の職業上の経験による勘(hunch)という多次元的思考である。しかし勘だけで判決をしてもその判決が正当であるかどうかという保証はない。その判決が正当であるというための理由付け（rationalization)をいわゆる三段論法-事実に法律を適用する-一次元的思考でプレゼンテーション（presentation)することを裁判官に義務付けているのが訴訟法である。経験法学とは、いわゆる裁判判断過程の経験科学的分析の学問である。心理学、統計学、論理学、医学、倫理学等との学際的研究を目的とする法律学ということができよう。