『長寿社会を生きる: 健康で文化的な介護保障へ一』

摘要

「人生100年時代」と言われる今日，老後の生活をいかに充実したものにしていくかいう関心は，国民のなかでより深いものとなっている.本書は，多くの読者層を対象に，真に国民の生活を支える「介護保障」の在り方を考察した学際的な研究であり，時代の要請に応えた良著である.本書は全3部で構成されている.第1部は，要介護者，家族介護者，介護専門職等の証言からなる.特に注目に値するのは，それらの発言に極めて人間的な「要求」や「人間発達」の可能性が散りばめられていることである.第2部では，各分野の専門家が「介護福祉」をとりまく現状を総合的に明らかにしている.第1章では，「介護保険制度」の「形骸化」が国家主導の制度作りによつて進hできた経緯を政策論的に分析している.第2，3章では，介護福祉労働を人間の特性である「目的意識性」,「社会的存在」，「発達」に根差した実践であると規定し,その「介護福祉労働」と「共同性」を焦点に，介護福祉の本質を考察する.第4章では，介護労働者と要介護者が相互に共同の関係を作り，実践していくことの重要性を指摘する.第5章では，介護の人材不足問題を解決していくためには，「量の確保」に加えて，介護の本質を捉えた教育=「介護過程」を理解し得る人材育成が重要であると指摘する.第6章では,「男性介護」，「ながら介護」といった特徴をもつ介護実態に対して，介護者が，家族の介護をする，しないということも含めた方針選択をも担保する「家族介護者支援」の在り方について究明している.第7章では，介護を担う責任が公から住民個々へと転嫁されている現状に対して，住民自治を軸としたまちづくりの在り方を究明している.第8章では，「介護保険制度」における「現金給付方式」と「保険主義的構造」が,高齢者ケアのための財政原則である「必要充足'応能負担原則」を妨げていることを論点に，財政改革の必要性を論じている.