現代に甦る、日本空間の深層

摘要

江戸時代の人というが、 「庭は、末期の目で見るべし」 と言った。 有象無象の欲と力がうごめく世間を渡る途上に閑暇を見つけて京都の古寺を訪れ、庭に忙しい心をなぐさめたとしても、それでは庭が分かったとはいえず、世間を渡り終え、この世からあの世に移るまさにその時に眺めると、庭の真が初めて見える、というのである。 そのような目で見るべき庭の条件は、岩でも洲浜でもなく、水と緑が完全に管理されていることだろう。水が清らかなまま流れてはたまり、松の葉先まで庭師の手で透かされ、杉苔の上が掃かれている時、はじめて岩も洲浜も精気を帯びて立ち現れることができる。 そのようにして長い年月を生きてきた庭は四つしかない。 戦後長らく忘れていた庭の声が聴こえてくるような時代が始まったということなのか。