静坐社に散りばぬられた泰山タイル

摘要

京都の吉田山の西麓に「静坐社」と呼ばれる洋館がひっそりと佇んでいた。2016年5月の解体に際し、さまざまな学術分野の研究者や建築家•大工•美術家らで建物の記録や部材の救出が行われた。屋根裏の棟札より、竣工は昭和4年で請負人は熊倉工務店の創業者の熊倉順三郎と判明し、随所に多用されたタイルの多くは裏面の銘から池田泰山が創業した泰山製陶所製であることが明らかになった。静坐社は、いち早く西洋の住宅様式を日本の伝統的な住宅様式に取り入れた熊倉工務店と、奥行きと透明感のある釉薬で「泰山タイル」という窯変タイルを広めた泰山製陶所の協働によって結実した昭和初期の名洋館。特に玄関前の床のモザイクは、さまざまな色形の窯変タイルを1枚ずつ割り、再構成して貼りつけられた泰山の真骨頂とも言える仕事。