機械振動系へのSAC応用上の問題点とその解決手法について

摘要

エレベータやクレーンなどはその状態により機械的特性が大きく変化する．そのため，コントローラの自動調整機構を備えた制御手法の適用が理想的であると考えられる．近年，実用的な適用制御手法として単純適応制御（SAC: Simple Adaptive Control）が注目を浴びている．SACは，制御系の安定性を出力フィードバック形式で，また，設定入力との追従特性をフィードフォワード制御方式でそれぞれ適応的に保証する2自由度制御系構造をもった適応制御手法である．制御器構造が従来の適応制御方式に比べ非常に簡単化されるにもかかわらず，制御性能およびロバスト性に優れた制御方式であるといわれている．振動抑制を目的とした機械振動系への応用例としても，ニューラルネットを併用した方法，インプットシェイピングを併用した方法などが報告されている．しかしながら，反共振を含む機械振動系にSACを適用した場合，反共振周波数に対応した振動的な制御入力を発生させ，その結果として，制御出力も振動的となることが明らかとなった．本論文では，機械振動系の例を通してこの問題を明確にする．このような機械系の反共振モードに起因する問題点については，文献などでも指摘されていない．次に，この振動入力問題を解決するため，規範モデルに適応ノッチフィルタ(ANF: Adaptive Notch Filter)を付加する方法を提案する．すなわち，制御対象の反共振モードを適応的に推定し，SACの規範モデルにANFを付加することで制御入力に振動を起こさせない．この場合，適応的に反共振周波数を推定していることから，制御対象の変動や不確かさにロバストにできる．提案方法の効果は，機械振動系を対象とした計算機シミュレーションと実験によって検証する．