速度論モデルを用いた角膜上皮細胞シートの挙動解析

摘要

角膜上皮の細胞が障害を受けて生じる難治性の眼疾 患に対する治療法の一つとして,片目を患っている場 合に,もう一方の健康な目の角膜輪部から採取した幹 細胞を培養し,作成した細胞シートを移植する方法が 行われている1)．先行研究において,角膜上皮細胞 シート内の細胞群が流動的に動く様子が観察されてお り,その流動性は培養中に経時的に変化していた．さ らに,積層構造を形成する検体では培養時間t = 150 h 付近で細胞シートの流動性が低下していた一方,積 層構造を形成しない検体では細胞シートの流動性低下 は見られなかった．これらの結果から,検体間の流動 性は細胞シートの積層化に関係があると考えられてい る．しかし,細胞シートの流動性が経時変化する機構 は未だ解明されていない． 本研究グループでは,各細胞挙動をモジュール化す ることで,モジュールの選択により種々の細胞培養を 表現可能なシミュレータを構築しており,これまで角 化細胞2)やiPS 細胞3)などの培養で生じる現象の表現,解釈を行ってきた． 本研究では,角膜上皮細胞シート形成培養における 細胞挙動を表現する速度論モデルによる細胞挙動シ ミュレータを構築し,細胞シート内の細胞の動きの検 体間差について考察した．