構造秩序を保持して刺激に応答する分子結晶の開発

摘要

分子結晶は、分子集合体の一つであり、有機分子や有機金属錯体分子が稠密かつ周期的に集積している。一部の分子結晶は、各種外部刺激に応答して結晶中の分子の配列が変化し、それに伴い物性変化を示す。実験者が与える外部刺激は人間スケールのマクロサイズであるが、応答する結晶中の分子は、これよりはるかにミクロなスケールである。そのサイズの違いのため、外部刺激がどのように分子結晶中の分子に影響を与え、観測される応答につながるのか、その機構を調査するのは困難な場合も少なくない。このような機構を調査するために、我々は発光性メカノクロミズムという現象に着目した。発光性メカノクロミズムとは、機械的な外部刺激（こする、すりつぶす、など）に応答し、固体や液晶のフォトルミネッセンスの色が変化する現象である。発光色の変化は、機械的刺激による分子配列の変化に起因する。しかし、多くのメカノクロミック分子では、発光色変化が結晶－アモルファス相転移に起因するため、特にアモルファス相の構造情報を十分に解明することが困難であった。そこで、構造秩序を保持し刺激に応答する分子結晶の開発を目指した。それにより、刺激応答前後の分子結晶材料の構造情報を詳細かつ直接比較し、刺激応答性の機構を詳細に解析することを目指した。以下に得られた成果を述べる。