LED光を利用した害虫防除法の確立に向けて

摘要

本専攻は平成17年より「有機JAS」「おかやま有機無農薬農産物」の認定を受け、有機無農薬農産物の生産に取り組hで本年度で13年目を迎えている。安全·安心な農産物の生産に取り組hでいるが、その一方で害虫対策に苦慮している。つまり薬剤を用いた防除はできないため、収量の低下が生じているのが現実である。本専攻認定圃場のビニルハウスでは年間を通して、アブラムシ·コナガ·アザミウマ類などが多くの害虫が発生している。その対策として、本専攻ではさまざまな研究を行ってきたが、いずれも有効な結果を得ることはできていない。平成26年12月、東北大学大学院農学研究科の堀 雅敏准教授がさまざまな波長のLED光をショウジョウバエの蛹に照射したところ、可視光の青色光（440nmおよび467nm）で高い殺虫効果があることを発表した。つまり、一般的に波長が短い紫外線は殺菌効果を持つことが知られているが、微生物よりもはるかに複雑な生き物である昆虫に対し、紫外線よりも波長の長い青色光に致死効果があることが明らかになった。本専攻では平成27年度に車載用LED基板（エーモン工業社製）を利用してアブラムシやマルトビムシの殺虫効果を期待したが、堀 雅敏准教授の実験装置と比較して光量が1／60と少ないため効果は認められなかった。そこで、昼行性害虫は黄色光に反応し、夜行性害虫は青色光に反応する性質を利用した誘因捕虫方法について検討した。つまり夜間、粘着捕虫シートにLED光を照射することで捕虫効果を高められると仮説をたてた。LED光を照射したときのアブラムシの行動を調査したところ、青色LED光処理と比べて黄色LED光処理で捕虫効果が高くなった。しかし、実際の栽培現場で夜間に連続照射したとき、植物体に与える影響が懸念される。また、農作物によっては夜間がないと枯死してしまう種についても報告がある。そこで、簡易実験装置を作成しLED光がコマツナ·ホウレンソウの生育に与える影響について調査したところ、夜間照射による影響は少ないことが明らかとなった。害虫特性に考慮した数種類の捕虫装置を作成しその効果を検証したところ、黄色LED光によってマルトビムシ、青色LED光によってコナガが捕虫できることが明らかとなった。さらに、アブラムシは黄色よりも暖白色で、メイガは青色よりも白色で捕虫効果が高くなることがわかった。ミナミキイロアザミウマが青色と白色LED光で捕虫効果があり、さらに水稲の害虫であるツマグロヨコバイも青色LED光で効果が認められた。LED光には省電力、長寿命、軽量小型化、破損しにくいなどさまざまな利点がある。その特性を利用して害虫を防除できれば、農薬を使用する慣行栽培においても農薬使用量を削減することができる。その結果として、安全·安心な農産物の提供、作業者の安全確保·経費節減、そして地球環境負荷も削減することができる。しかし、さまざまな栽培現場での効果についてデータを蓄積するとともに、LEDの光度·処理時間帯、処理色の検討、より有効な装置の検討、そして害虫特性の調査などが必要で あり、今後もこの技術の確立に向けて研究を続けていく。