様々な観測データと計算機環境の整備により,断層破壊から都市応答までの物理シミュレーションに基づいた地震被害推定への期待が高まっている[1].固体地球分野で地震発生の準備から発生までの過程の研究のためのツールとして用いられてきた地震サイクルシミュレーションを,数百年以上の時間スケールで実施し,その結果から地震発生シナリオを抽出することで,そのような地震被害推定への入力がより適切に設定可能になると期待される.地震サイクルシミュレーションでは,媒質中の既存の弱面を仮定し,そこに摩擦構成則を仮定する.摩擦面上で発生するすべりを地震とみたて,2枚のプレートの相対運動などの駆動力に対するすべりの自発的な発生·進展を計算する.媒質として半無限均質弾性体を仮定し,すべりに対する媒質応答の解析的表現(例えばOkada[7])をベースとした境界要素法によりサイクルを計算する手法が多く用いられてきた(例えばHyodo and Hori[2]).一方で,プレートの沈み込みによりM9 クラスの巨大地震が発生する沈み込み帯においては三次元的な構造不均質性が大きく,また深部のマントルは数年以上の時間スケールでは粘弾性旳な特徴を示すことで知られる.これらを考慮することは,半無限弾性体によるサイクル計算の適用範囲外である.これらを扱う方法としては,媒質の応答計算を有限要素法などの数値計算が考えられる.このようなアプローチは,大規模な震源域での数百年分の計算を考えた場合,自由度10~9以上の弾性·粘弾性変形問題を少なくとも数万ステップ解く問題となるため,従来は計算コストの問題で実現が難しかった.しかし,近年開発されてきているスーパーコンピュータに適した高速有限要素ソルバー[3]の導入で解決可能と考えられる.そこで本研究ではIchimura et al.[3]が開発した線形粘弾性有限要素解析による地殻変動計算手法を非線形粘弾性計算に拡張し,地震サイクルシミュレーションに適用する.本論文では,開発した手法の概要を紹介する.さらに,規範旳な問題における解析例と,地震サイクルの一部分とみなせる2011年東北地方太平洋沖地震の地震後地殻変動計算への適用例を示す.
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