水溶性加工液代謝システムに関する研究－繰り返しリサイクルした加工液のシステム運用

摘要

近年，環境問題が深刻化し，企業の生産活動にも環境問題に対する対策が強く求められている．機械加工の分野では水溶性加工液の廃液処理に伴う環境負荷が問題視されている．水溶性加工液は不水溶性加工液に代わり各種生産現場で大量に使用されるようになったが，その大部分が水分であることや添加物を大量に含hでいることから，廃液を処理する過程で環境負荷となる．そこで，既存の処理方法に替わるものとして，使用済み水溶性加工液から水分のみを分離抽出し，そこから得た回収水を新たな加工液の希釈液として水資源を循環再利用する水溶性加工液代謝システムを考案した．このシステムは工場内で水資源を循環できることから，工場からの廃液量の大幅な削減が可能となり，水溶性加工液の廃液処理に伴う環境負荷の低減が期待できる．水溶性加工液代謝システムの実用化にあたっては，回収水で希釈した水溶性加工液の性状変化や加工特性が長期にわたり安定であり，水道水や工業用水で希釈した水溶性加工液と変わらないことを確認しておく必要がある．現在多くの加工現場で使用されている汎用エマルション水溶性加工液については，回収水で希釈した水溶性加工液が水道水で希釈した水溶性加工液と同様に長期間にわたって使用できることを確認した．本報告では，水溶性加工液の廃液からの回収処理が容易なアミンフリーエマルション水溶性加工液に着目し，複数回リサイクルした加工液の有効性について報告する．アミンフリーエマルション水溶性加工液(以下アミンフリー加工液と表記する)とは，多くの生産現場で使用されている汎用エマルション水溶性加工液に含まれるアルカノールアミンなどのアミン系化合物を含有しない水溶性加工液の総称である．アルカノールアミンなどは防錆性能やpH を維持するための添加物であるが，親水性が高いことから水溶性加工液からの分離が困難な物質であるため，廃液処理性に大きく影響すると考えられる．本研究では，アミンフリー加工液を水道水で希釈し，実際に工作機械で使用することによって水溶性加工液に求められる基本的な性能である性状変化，加工特性の経時変化を評価した．実際に水溶性加工液代謝システムを工作機械の現場で運用する際には繰り返し水溶性加工液をリサイクルして使用することが考えられる．このことを考慮して，工作機械で使用した水溶性加工液から得た回収水を新たな水溶性加工液の希釈水として再利用し，それを工作機械で使用する行程を複数回行った．このときのリサイクル加工液を水道水希釈のアミンフリー加工液と同様に性能を評価することにより，アミンフリー加工液を複数回リサイクルして使用することの有効性を検討した．