アルミニウム合金の熱処理状態が切削速度200m/s に至る高速切削機構に及ぼす影響

摘要

切削速度の高速化には加工時間の短縮効果のほか，加工変質層厚さの低減など仕上げ面品位の向上が期待されている．航空宇宙分野で利用されるアルミニウム合金は低切削速度では構成刃先の生成と脱落により仕上げ面品位が著しく悪くなるが，切削速度を高速にすると良質な仕上げ面が創成できると言われている．そのため，アルミニウム合金の高速切削加工は普及し，切削速度は100m/s を超えるようになってきている．しかし，アルミニウム合金の切削速度に対する切削特性に関しては体系的なデータが少ないため，どこまで高速化できるかについては不明な点が多い．さらに，時効硬化させ機械的強度を高める析出強化材であるアルミニウム合金を高速で切削すると，切削温度もひずみ速度も高くなるため，析出強化の度合いが変化しこれが切削特性に影響を及ぼす可能性がある．そこで本研究では，熱処理状態が異なるアルミニウム合金を広範囲な切削速度域で切削実験を行い，それぞれの被削材における高速切削諸現象を明らかにし，さらに両被削材を比較することで，熱処理状態が切削機構に及ぼす影響を吟味することを目的とする．被削材は，Al-Cu 二元系のアルミニウム合金A2017 の熱処理状態が異なるA2017-T3（119.5HV; 以下T3 材と呼ぶ）と，A2017-O（73.8HV; 以下O 材と呼ぶ）とした．これまでに切削速度1m/s から160m/s までの高速試験を実施した．ここでは，それよりも速い切削速度200m/s までの領域において熱処理状態が切削機構に及ぼす影響について検討した結果を報告する．