口腔内における冠状面の断面形状が歯茎摩擦音／s／の発生に及ぼす影響

摘要

歯茎摩擦音/s/とは日本語のシを除くサ行を発音する際に，口腔内から発生する音である．歯茎摩擦音／s／発生時には硬口蓋に舌前方部を近接させて狭窄流路が形成し，狭窄流路から発生したジェット流が前歯部付近において空力音源を発生するといわれている．これまで，歯茎摩擦音/s/の詳しい発生原理を調べるために，口腔形状を単純化したモデルが用いられてきた．Shadleは狭窄流路から発生したジェット流が前歯に衝突することにより音が発生すると考え，円管流路内に小径の円管と半円形の板をそれぞれ狭窄と前歯として設置することにより，口腔形状をモデル化した．このとき，モデルを実際に作製して空気を流すことにより，モデルから歯茎摩擦音/s/の特徴である高周波数域の音が発生することが確認されている．また，Howeらは狭窄流路から発生したジェット流が上下前歯の隙間において乱流境界層を形成し，そこで空力音源が発生すると仮定して口腔形状をモデル化した．このとき，乱流境界層の理論式より発生する空力音源のスペクトルを見積もり，音響フィルタ理論によりモデルから発生する音を予測し，より実際の音に近い4kHz以上の高周波数域の音の発生を再現した．しかし，これらのモデルでは口腔内で発生する流れを仮定することにより発生する音を予測しており，歯茎摩擦音/s/発生時の口腔内での流れをどの程度再現して，音の発生を表現しているのか明らかになっていない．