リンパネットワークを介した転移リンパ節の治療法に関する研究

摘要

乳癌や頭頸部癌による死亡原因としては，原発巣の増太リンパ節転移，および肺等への遠隔転移が挙げられる．現在の医療において，遠隔転移に対する根治的な治療法は開発されておらず，遠隔転移は致死的状況を意味する．しかし，乳癌や頭頸部癌においては遠隔転移に先行してリンパ節転移が生ずる症例が多いことから，リンパ節転移の段階でがhを制御することが，がhの生存率の向上に不可欠である．転移リンパ節に対する治療としては現在リンパ節郭清が最も根治性が高いとされているが，侵襲的であることや切除が困難な場合がある．これまで我々は，リンパ節転移の病状解明や新たな診断·治療法を開発するために，ヒトとリンパ節と同等の大きさにリンパ節が腫大するリコンビナント近交系マウスMXH10／Mo-Ipr//pr（MXH10／Mo／lpr)を樹立し，リンパ節転移の病態を観察してきた［1］．その結果，このマウスの腸骨下リンパ節に実験腫瘍細胞を注射すると内側腋窩リンパ節にリンパ管を介して転移することが明らかになっている［2］．さらに腸骨下リンパ節に注入された腫瘍細胞は，リンパ節内の血管を介して肺転移を起すことも明らかとなっている［4］．これらの研究結果から，リンパ行性転移と血行性転移は明確に区別できるものではなく，転移リンパ節が血行性転移の重要な起点となったリンパ節介在血行性転移であることが示唆される．したがって，遠隔転移を誘発する以前にリンパネットワークを介した郭清域外のリンパ節も含めた転移リンパ節の低侵襲性治療法の開発が求められる．本研究では，腸骨下リンパ節から内側腋窩リンパ節に転移を誘発し，外側腋窩リンパ節に墨汁を注入することで，内側腋窩リンパ節での墨汁の分布からリンパ行性薬剤送達法の有効性を検討した．