異なるDuty比で成膜されたSi含有DLCの摩擦挙動と湿度の影響

摘要

近年，摩擦環境の厳しいエンジン部品への表面コーティング等，輸送用機器部材へのコーティングが着実に拡大している.2005年には一般産業機械部品と自動車·二輪車部品へのコーティングのみで市場全体の半分以上を占めるようになった.DLC(Diamond-Like Carbon)膜は高硬度·高耐摩耗性·低摩擦係数などの特徴を有することからしゅう動部への商用が拡大している.DLCは水素含有の有無やダイヤモンド構造·グラファイト構造の割合等で分類されるが，中でもa-C:Hは乾燥N_2雰囲気下で0.02ほどの摩擦係数を示す特徴を持つ.さらに真空中では0.005という摩擦係数も報告されている. しかし，図1-1に示すように湿度が存在すると最大で0.5程度まで摩擦係数が増大する.Siを含有したDLC(以下，Si-DLC)においては，大気中無潤滑という条件でも摩擦係数は0.1から0.05ほどと低摩擦係数を示すことから注目されている.中野ら の研究では Si 含有 DLC(Si-DLC)に注目し，MVP(Microwave-sheath Voltage combination Plasma)法により成膜されたSi-DLCは水素含有量を24.5 at%から34.4 at%に増加させることで，大気下無潤滑のSUJ2球を相手材としたボールオンディスク式摩擦試験において摩擦係数が0.12から超低摩擦係数となる0.025に低下することを示した.また，MVP法ではDC及びマイクロ波をパルス化して導入するが，その入力時間と1周期の時間の比をDuty比と呼ぶ.このDuty比を減少させることで成膜時の温度が低下し，膜内のポリマー結合が増加し，それに伴い水素含有率が増加し，超低摩擦係数になると考えた.しかし，中野らの実験では湿度は制御されておらず，Si-DLCの摩擦係数は湿度に依存すると報告されていることから水素含有率と摩擦係数の相関を示すためには湿度の制御が必要であると考えられる.よって，本研究ではDuty比を減少させることで水素含有率を増加させ，膜構造の変化を分析すると共に湿度も考慮した上で摩擦係数との相関を確認する.