公的統計における差分プライバシーの可能性: 国勢調査のメッシュデータをもとに

摘要

公的統計の分野において、秘匿の基準に従ってノイズをコントロールする方法として、主に情報工学の分野で展開されてきた差分プライバシー(deferential privacy)の方法論の可能性が、海外の統計作成部局において注目されている。その理由としては、とくに小地域レベルの統計表において、複数の統計表の組み合わせによて個体の特定化を行う差分攻撃（differencing attack)のリスクに対する対応の必要性が指摘される（Abowd(2018))。最近では、国際連合欧州経済委員会（The United Nations Economic Commission for Europe)と欧州統計局（Eurostat)力《共同で2019年10月に開催した「統計データの秘密保護に関するワークセッション(Work Session on Statistical Data Confidentiality)]等で、差分プライバシーに関する報告や議論が、統計作成部局の関係者から注目されてきた。例えば、Thomas (2019)は、カナダ統計局における個票データの二次利用の取り組みの1つとして、個票データによる分析結果の公表におけるリスク回避の観点から、差分プライバシーのリスク評価への適用可能性を議論している。また、オーストラリア統計局（ABS)は、オンデマンドの集計システムであるTableBuilderにおけるノイズ付与の方法論として、差分プライバシーの適用可能性を追究しており、これまでのノイズ付与の方法と差分プライバシーを用いたノイズ付与に関する実証的な比較研究を行っている（Bailie and Chi en (2019))。