公的統計における諸課題の欠測データ解析としての理解と諸手法の紹介

摘要

国内外での公的統計の課題は様々指摘されているが、（1)回収率·協力率が低下する中でいかに代表性のある集計結果を公表できるか（2)社会経済環境の変化が大きい近年の公的統計へのニーズとしての速報性をいかに高めるか(3)政府や自治体における証拠に基づく政策意思決定(Evidence based policy making: EBPM)の重要性の認知、あるいは公共財としての統計の経営意思決定への利用に対するニーズの盛り上がり、という代表性·速報性·公表の柔軟性/詳細な結果公表へのニーズ、の3点の課題に集約される。これらの問題を統計学 的観点から解決する際に求められるのは、既存の統計調査だけではなく、複数の関連する利用可能なデータを活用するというデータ融合やデータ統合である。関連するデータの利用は実は新規的なことではなく、公的統計において利用される乗率設定は例えば国勢調査を利用してきたように、外部の信頼性のある、または大規模なデータを活用するという点でデータ統合の一種といえる。近年ではさらに民間が所有する消費や貯蓄、位置情報など様々なビッグデータを公的統計調査と融合させることでこれらの課題を解決する試みが進hでいる。例えばオーストラリァ統計局(ABS)はこの数年間に非常に積極的に2つ以上の情報源からのデータを組み合わせる「データ統合」（data integration)についての研究や様々なデータプロバイダーとの協力関係の構築を実施している。具体的には2017-18年からData Integration Partnership for Australiaの下で追加の資金援助を受け、他の政府機関と協力してMulti-Agencv Data Integration ProjectやBusiness Longitudinal Analysis Data Environmentなど高品質で安全な統合データの作成に取り組hでいる。このようなデータ統合は、もともと主にョーロツバでの広告効果測定の実務でData Integrationという広義の複数データの活用法の一種として利用され(ARF,2003)、経済学では疑似パネルデータや data combinationという名称で議論され（Ridder and Mofiitt,2007)、統計学的には欠測データ解析の枠組みで統一的に理解することが可能である（星野、2009)。他にも行政データを一部用いて公的統計の精度向上を目指す研究も諸外国では進展してきている。本発表では、 最初に取り上げた3つの課題とそこへのデータ統合アプローチなどを欠測データ解析の枠組みから統一的に議論し、講演者が分析を行った消費統計での取り組みを紹介する。