加齢性難聴に伴うポピュラーソングの印象変化の検討: 模擬難聴を用いて

摘要

日本はすでに超高齢社会に入っており、高齢化率は今後数十年増加の一途であると予測されている。一方で、年齢を重ねるごとに高齢難聴の有病率は確実に上がる。高齢者であっても、あるいはより時間の余裕がある高齢者だからこそ、音楽に親しみ続ける層は一定数いるのではないか。また、高齢難聴は必ずしも自覚があるとは限らない上、ライフスタイルの変化を要求しない病気であるるため、高齢難聴を有する音楽リスナーが一定数いると考えられる。こういったリスナーがどのように音楽を聴取しているかを理解することは、多様化が進む社会における音楽コンテンツのあり方について考えを深めてゆくプロセスの一つとして、意義があると考える。今回は、ポピュラー音楽を題材とし、模擬難聴システムを用いて音刺激を作成した。入野らが開発した模擬難聴システムは圧縮特性を打ち消す逆圧縮特性を付与することよって、聴覚系の線形な音圧低下だけではなく非線形な加齢性難聴者の聞こえを再現することができる。本研究では、高齢難聴を模擬した状態で音楽を聴取した場合に、どのように印象が変化するかについて、若年健聴者の協力を得て評価実験を行った。