有機リン系殺虫剤の塩素処理に伴うコリンエステラーゼ活性阻害の変動とそれに寄与する分解生成物のOrbitrap質量分析による同定

摘要

有機リン系殺虫剤のADI設定時の毒性指標はChE(コリンェステラーゼ)活性阻害性である。現在の水道水質基準には12種類のP=S結合をもつ有機リン系殺虫剤が登録されているが，環境中での酸化反応により生成されるオキソン体(P=S結合がP=0結合へと酸化されたもの)も同じChE活性阻害性を有する。従って，これらのうち8種類については，原体とォキソン体の濃度を合算し原体の濃度に換算することと定められているが，残る4種類についてはォキソン体が測定対象に挙げられていないのが現状である。さらに農薬は凝集沈殿，砂ろ過処理では除去が困難なため，消毒のために添加される塩素と直接反応して，オキソン体以外にも様々な分解物へと変換されるが，これらの分解物についても注意が払われていない。そこで本研究では，オキソン体が測定対象となっていないDMTP(メチダチオン）を例とし，塩素処理時のChE活性阻害性の変動を評価すると共に，塩素処理過程で生成されるオキソン体やその他の分解生成物が,ChE活性阻害性に寄与するのか否かを調べた。