熟練技能に基づくエキスパート制御系の設計法とその適用に関する一考察

摘要

近年，高度経済成長の製造業を支えた，いわゆる団塊の世代の熟練技術者は，定年退職により急速に減少している。また，航空機業界においても，一種の熟練技術者といえるパイロットに関して，「2030年問題」が深刻な問題となっている。これらの問題のように，熟練技術者の退職に伴う熟練技能の喪失は，社会にとって大きな損失となる。一方で，近年のCPUやストレージ機能などのハードウェア性能の著しい向上や，センサの小型化，低消費電力化，低価格化などに伴い，大量のデータの蓄積と高速な書き込み，読み出しが可能となった。これにより，新しいデータが得られるたびにデータの保存が容易になり，大規模なデータベースの構築が可能となった。データベースを活用した制御手法として，Just In Time(JIT)法やLazy Learning,データ駆動型PID(DD-PID:Data-Driven Proportional-Integral-Derivative)コントローラなどが提案されている。これらの基本原理は，現在のシステムの状態(要求点)と類似するデータを近傍データとしてデータベースから抽出し，コントローラを設計する，あるいはコントローラ出力を直接計算するというものである。特に，産業現場においては，PID制御則が広く用いられているという現状を鑑みれば，上記のDD-PIDコントローラは実用性の高いコントローラであると言える。データベースを用いた制御法が数多く提案される中で，先述の熟練技能喪失の問題解決手法の1つとしてスキルベーストPIDコントローラが提案されている。