ウィーン 19 世紀から見るアドルフ・ロース:市民文化の動向を通して

摘要

本研究では、19世紀末から20世紀初頭に活躍したウィーンの建築家アドルフ・ロース(Adolf Loos,1870-1933)の言説を、19世紀ウィーン市民文化の動向を通して分析を行う。これまでのロースに関する研究の射程は、19世紀末ウィーン、そして建築や芸術文化の範疇に留まっていたきらいがある。特に、ロースが自らの活動した世紀末ウィーンの状況と比較し「半世紀前は…」という発言を度々行なっているにも拘らず、19世紀前半の動向は軽視されてきた。さらにロースはそのとき市民生活に向けて多くの発言を残す。その「半世紀前」が、ビーダーマイヤー期(Biedermeier)を指すことは既に指摘れている。そこで、19世紀前半との関連を持つロースの姿と、19世紀末ウィーンにおける彼の姿とを繋ぎ合わすべく、19世紀を通した連続的なロースの認識を、彼の言説を中心に整理する。そして歴史的事実である一連の市民文化の動向と照らし合わせ、彼の理論形成の主軸を追う。これらを土台に、晩年のパリでの活動を踏まえ、ロースの近代精神に関して考察する。