長時間走行中の疲労が下肢の動作および筋活動に及ぼす影響

摘要

長距離走においては時間経過にともなう走動作の変化がランニングスキルや走の経済性に影響を与えていると推測される．そのため，長時間走行中の動作の変化を明らかにすることは1サイクルの動作分析と同様に重要であると考えられる．しかし，長時間走行中の連続する複数サイクルにおける走動作や筋活動の変化は明らかになっていないため，長距離走において，疲労しながらも走速度を維持するためにはどのような要因が関わっているのか定かではない．そこで，本研究では長時間走行中の下肢動作および筋活動を計測し，長時間走行を行うことで蓄積する疲労が下肢の動作および筋活動に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした．日頃から長距離走トレーニングを行っている7名の青年男性を被験者とした．被験者にトレッドミル上で3種類の速度で長時間走行を行わせ，連続した複数サイクルの動作解析および筋電図学的解析を行い，時間経過にともない蓄積した疲労が下肢の動作および筋活動に及ぼす影響について検討した．主な結果は以下の通りである．1) 時間経過にともないステップ長は増加し，ステップ頻度は減少した．2) 平均放電量と周波数解析の結果，長時間走行中に蓄積する疲労が影響を受けやすい筋は各局面で異なった．3) 支持期局面では，主に腓腹筋とヒラメ筋が疲労の影響を受けていることが示唆された．このことから，離地時の蹴り出しにおける筋発揮が減少していると考えられ，1サイクルで進む距離が短くなったと推測できる．4) 遊脚期局面では，主に大腿直筋，大殿筋，前脛骨筋，腓腹筋が疲労の影響を受けていることが示唆された．このことから，遊脚期における大腿の可動範囲を大きくすることで走動作を維持していることが推測できる．以上のことから，長時間走行による疲労は離地時の蹴り出しにおける筋発揮を減少させるが，遊脚期における大腿の可動範囲を大きくすることにより走動作を維持させていることが示唆された．