クロム化合物磁性体における磁場誘起歪

摘要

ある物体に磁場を加えることは，その物体にどのような変化をもたらすだろうか.鉄が磁石にくっつく，といった電磁気力による効果は脇に置いておいて，ここでは物体自身に起こる変化を考える.最先端の研究で得られるような数100 T，1000 Tといった超強磁場であればともかく，われわれが通常使えるような永久磁石（1T未満）や市販の超伝導磁石（たとえば10 T程度）の磁場では，普通の物質であれば何も起こらないだろう.しかし，いくつかの場合には，そのような磁場を加えることで，物体にはっきりとした変化が生じる. 1つの典型例が，強磁性体における磁歪である. 磁石でない，つまり，消磁した強磁性体に磁場を加えて磁化すると，磁場の方向に強磁性体の長さが伸びる，または縮むという形状の変化を示す. これを磁歪と呼ぶ.磁歪の研究には2世紀近くにわたるとても長い研究の歴史がある.最も古典的な対象物質は鉄やニッケルといった強磁性体の金属であり，磁場を加えることで数ppmから数10 ppmの長さの変化△L/Lが生じる(1 ppmは100万分の1.つまり,△L/L=10 ppmの場合には，磁場を加えることで長さが1.00001倍となる）. このような，磁場を加えたときに生じる物体の形状の変化は，原理的にはほとんどすべての物質で生じてよいはずだが，その変化の大きさは極めて小さく，観測にかかることはないだろう.