香りと呼吸の脳内メカニズム－生きる呼吸，香る呼吸，思う呼吸－

摘要

我々は普段絶え間なく呼吸運動を繰り返している。 しかしリズムを意識して自ら呼吸しているわけではない。 呼吸の役割は酸素を取り入れ二酸化炭素を排出することであり，またエネルギー代謝に伴い算出される二酸化炭素量を一定にするべく呼吸の深さと速さで調節する。 呼吸のリズム産出とそれらの調節はすべて無意識になされ延髄がその役割を担っている。 この生命の維持に不可欠である呼吸にもうひとつの重要な役割がある。 それは息を吸うという行為が嗅覚と深く密接しているということである。 息を吸いこんで香りを感じることができ，息を止めれば香ることはできない。 また香りを感じるまでの脳内プロセスが辺縁系に直結していることから記憶や情動を喚起させることが容易である。生きることとは呼吸をすることであり，また生きることすなわち香ること，そして物を思い感じることと言ってもよい。ある一定のリズムをもつ呼吸が脳内のリズムとどのように関係しているか，または情動とどのような関係にあるのかは興味深い。 本稿では呼吸と嗅覚·情動について生理学的研究に基づいて紹介する。