視覚触覚統合による物体変形量の知覚：感覚間時間遅延の効果

摘要

外界を正確に知覚するために複数の感覚を用いることが可能である．この時，各感覚への入力は最初にそれぞれの感覚で独立に処理され，そこで推定された結果が統合されることにより正確な知覚を行っていることが知られている．本研究では複数の感覚を統合する際に，どのような情報がそれぞれの感覚で推定され，またどのような情報が統合過程で統合されるのかを検討した．複数の感覚で，与えられた状況に必要な情報をそれぞれ推定した上で統合するという間接的な統合モデルと，入力された情報が各感覚から統合過程に直接送られて統合され，その後必要な情報が推定されるという直接統合モデルの妥当性が検討された．物体の変形量を視覚と触覚により推定する課題を行い，感覚間の変形に時間的な遅延を導入した結果，物体の変形量は感覚間の時間的な遅延が大きいほど，物理的に入力された変形量よりも小さく推定されることが示され，直接統合モデルの妥当性が示唆された．異種感覚統合過程では課題や状況に関わらず各感覚へ入力された情報が統合され，この統合された情報から，課題や状況に応じて必要な情報を推定されていることが示唆された．