モバイル端末を用いた全方位コンテンツアーカイブシステムと自伝的記憶の想起性

摘要

日本の各地には地域に根ざした風景や文化があり，それらは後世に伝えられていくことが望まれている．しかしながら現在，各地域で少子高齢化やそれに伴う過疎化が進み，日々，その地域にとって重要な風景や文化が失われつつある．その例として，平成14年から平成27年にかけて廃校にとなった学校は6811校あり，活用の用途が決まっていないものが1260校，校舎の取り壊しが決まっているものが171校と，ある地域の誰もが過ごした風景が急速になくなっている．このような問題を解決する一つの方法として，歴史遺産などを劣化させることなく保存するデジタルアーカイブの技術が注目されている．このアプローチを用いれば，アーカイブされたデータをWeb上で公開することで，多くのユーザが失われた風景などを閲覧できるようになり，また，映像や音などの情報を付与することによって新たな付加価値を生み出すこともできる．このような利点から，近年，デジタルアーカイブの研究は様々な分野で行われており，それらは大きく分けると高臨場感コンテンツを提供するアプローチと，低コストで多様なコンテンツを提供するアプローチの二つに分類することができる．