細胞シート工学による再生医療本格化

摘要

損傷した組織，臓器の機能の一部を代替·補強する人工臓器の開発は1970年代から進められ，人工心臓，人工肺，人工血管，人工関節などが臨床応用されており，数多くの患者が救われている。しかし，組織，臓器の複雑な生化学的機能（肝臓，腎臓などの代謝機能，神経の化学物質伝達能など）の付与，耐久性，生体適合性などの問題が残ざれており，今後の大きな課題となっている。 近年，細胞がもつ生理的機能，生体適合性をそのまま利用し，生体組織を再生する組織工学が注目されている。 組織工学がめざすところは，細胞と生分解性高分子から，生体組織の類似構造体を作製し，これを整体内へ移植することで失われた組織，臓器機能を再生することである。 細胞の足場となる生分解性高分子はある一定の半減期で分解され，その間隙に増殖した細胞あるいは細胞が分泌·合成した細胞外マトリックス（extra cellular matrix，ECM）と置き換えられ，組織が再生する。 しかし，細胞増殖やECMの分泌·合成と生分解性高分子の分解の速度のバランス制御は難しく，組織形状の維持や大きな組織再生は困難である。 また，生分解性高分子の分解により周辺組織の炎症反応も問題となる。