科学的不確実性と国際法における予防原則

摘要

飛躍的に拡大した経済活動や日々の生活からの環境負荷が蓄積し，地球温暖化や海洋環境の悪化など地球規模での環境の深刻な悪化が懸念されている．他方で，多種多様な化学物質やバイオテクノロジーから作り出される人工的に遺伝子を操作した新奇の生物のように，近代の科学技術の発展とその「成果」の商業化に由来する私たちの生命や健康，そして環境に対する悪影響への懸念も大きい．環境のすべてを解明できないことと相まって，こうした悪影響が生じる蓋然性や程度を現段階では十分な確実性をもって科学的に評価することが難しい場合も少なくない．国際社会において国家の行動を規律する国際法が直面している最も重要な問題の一つは，このような科学的不確実性を伴う「リスク（危険性）」をいかに取り扱うかという問題である．