ぺプチドから「擬天然大環状べプチド」へのモダリテイ一の拡張

摘要

ぺプチドとは，夕ンパク質より短鎖のアミノ酸サイズが2-50残基程度のポリぺプチドを指し，ぺプチドホルモンに代表されるように生体内で絶えず合成され，シグナリング分子として機能する生体分子でもある。このような性質から，ぺプチドは20世紀初頭から現代まで医療，学術界そして製薬産業への多大な貢献を果たしている、代表的なペプチド製剤として，インスリンがある。インスリンは言わずと知れた血中の糖レベル調節に不可欠な生体分子で’1921年に肝臓から抽出単離され，1923年イーライリリー社によりぺプチド薬剤として初めて上市された。以来，インスリンはI型糖尿病患者を救った薬として，社会から科学者への感謝と大きな信頼を集めただけでなく，ぺプチドと疾患の分子レベルの研究を加速させた。またその功績を称えられ，インスリンの発見·構造解析·応用研究の三度において，総勢5名がノ一べル賞を受賞している。欧米主要国において現在までに，代謝調節剤リラグルチド（GLP-1様作用），骨 密度増加剤テリパラチド（甲状腺ホルモン様作用），オクトレオチド（ソマトスタチン様作用）を含む68種類（2017年3月時点）のべプチド製剤が医療に貢献しており，2019年にはぺプチド製剤だけで世界の市場規模は7兆円を超えるとされている。それにもかかわらず，ぺプチド創薬は低分子医薬品，そして最近開発が活発な抗体などのタンパク質製剤に比べ，扱いの難しいモダリテイーとして，製薬企業で積極的に研究開発されているとはいえなかった。その主原因として，内分泌系べプチドホルモンのリード化合物としての限界(標的可能なタンパク質の枯渴），非膜透過性（経口投与不可），そして 生体内不安定性（非常に短い半減期）が挙げられる。