宇宙航空産業とトライボロジー

摘要

ちょうど100年前，ライト兄弟の飛行機が人類最初の低空飛行に成功した。 それ以来，航空機の発達はめざましく，1930～40年代には，すでに大型航空機がより高く飛行することを目的として設計開発されていた。 ところが，飛行高度が高いところでは，発電機に使われているカーボンブラシの摩耗が激しく，克服すべき最重点技術課題として，この問題が取り上げられた。 これをきっかけとし，当時カーボンブラシメーカやNASA（National Aeronautics and Space Administration）の前身であるNACA（National Advisory Committee for Aeronautics）が固体潤滑剤（特に炭素やグラファイト）の摩擦·摩耗の基礎研究を行った。 今でいうところのトライボロジー研究を行った。 現在，宇宙で最もよく使われている固体潤滑剤の一つである二硫化モリブデンは，当時研究者の好奇心をそそる材料の一つでしかなかった。 しかし，宇宙航空産業の発展とともに二硫化モリブデンは，宇宙環境下や真空中で最もよく使われる固体潤滑剤としての大きな地位を築いていった。 この事例から明らかなように，1940年代に行われた潤滑剤の基礎研究の成果が，50年代後半米ソ両国の宇宙開発競争幕開け時（つまり米国宇宙産業の勃興期）に，宇宙空間に適した潤滑剤の開発に光明を投じることとなった。