テニスに関する実験力学的研究：目に見えないものを見る－ラケットのスピン性能の謎を解く

摘要

テニスは体験により修得するものだから，ラケットが実際のプレイにどのように影響するかを客観的に評価することは難しい．しかし，最近のスポーツ工学の成果により多くの謎が少しずつ明らかになりつつあり，ボールとラケットの正面衝突に関しては，ラケットの反発性能（ラケットが静止していると見なしたときのボールの跳ね返り速度と入射速度との比），ボールの飛び（打球速度），手に伝わる衝撃振動などが予測できるようになった．ボールに食いつきの良いストリングスが存在することを多くのプレーヤーが経験的に認めている．ボール·コントロールには適切なスピン（回転）が必要であり，スピンの良くかかったボールはバウンドしてから鋭く跳ねて伸びてくる．インパクトにおけるボールのスピンはきわめて重要なテニスの要因であり，ストリングスの種類·材料·張力·ゲー·ジ（素線直径）などがどのようにスピンに影響するかという問題は古くから興味深い研究テーマであったが，ラケットやストリングスの物理特性とスピン性能の関係は現象の複雑さから不明であった．従来からボールとストリングスの摩擦が大きいほどスピンがかかりやすいという仮説が立てられることが多いが，ラケット·ヘッドを固定した斜め衝突の最近の研究においても，摩擦特性，あるいはストリングの種類や張り上がりテンション（初張力）とスピン性能の間には明確な関係は見られない．本稿では，ボールとラケットの実験的同定に基づくラケットの性能予測例について簡単に述べ，ついで高速ビデオ画像解析によって最近明らかになったボールのスピンに関する研究について紹介する．