総論幹細胞制御の最新知見を「内観外望」する

摘要

個体発生における生体内各組織の構築や損傷後の再 構築，あるいは環境への生体応答による恒常性維持の源 といえる幹細胞は，その制御基盤が，太古から現代に至 るまで脈々と迪つてきた環境の変遷への適応の歴史にもと づいて今の姿があると考えれば，生命史において蓄積さ れた経験に求めているという見方ができょう。生物は地球規模の環境変化や微小生活圏（ニツチ）の 多様化に適応するため，ゲソム情報の試行錯誤的改訂を 繰り返し，個体の機能を進化させてきたと考えられる。進 化の結果として誕生した生物個体は，その発生期から成 体に至るまで個体内外の環境の変化にさらされ続けるが， その環境変化に対して細胞、組織レベルで可塑的に，ゲソ ム情報を選択的に活用しながら（時には非ゲソム的制御= ェピジエネティック制御に因り)，構造および機能の変化を 誘導する適応戦略を取っている。本特集はもちろh進化そ のものを取り上げるものではなレが，これまで多くの総説が 著されてきた中で，生物の適応の歴史的な戦略の蓄積を 幹細胞の制御に参照するという切り口で，考察を試みたい。