生体吸収性高分子ナノシートの構築と新しい医用材料としての展開

摘要

医療の目覚しい進歩に伴い，癌·造血器腫瘍などの化学療法や放射線治療が年々増加する一方，造血細胞の破壊に伴う血小板減少症，貧血や脱毛等の副作用を減らし，患者のQuality of Life（QOL）を向上させる努力は21世紀における医療においてますます重要となっている．薬物による副作用を軽減するために，標的とする患部（臓器や組織，細胞）のみに薬物を選択的かつ効率的に送達させる技術，すなわちバイオテクノロジーを駆使したドラッグデリバリーシステム（DDS）の概念が進展し，現在までに生体適合性を有するリン脂質二分子膜小胞体（リポソーム），ミセル，エマルジョン，生体吸収性高分子からなるナノ粒子やナノカプセルなどが薬物運搬体として開発されてきた．これらの表面に標的患部に対する抗体やリガンドなどの認識部位を担持させ，指向性を付与するアクティブターゲティング法がある．われわれも，DDSの概念を利用した血小板代替物を提案し，検討を重ねてきた．血小板が出血部位を認識して粘着，凝集する分子機構に着目し，血管損傷部位や活性化した血小板表面を認識できる分子を表面に担持させたナノ粒子は，出血部位を認識して特異的に集積し，血栓形成を誘導する起点となって出血部位を充填して止血能を発現する．従来の薬物運搬体は球状の形態が常識であったが，果たしてこの形態が担体として最適な構造であろうか．