第150回日本体力医学会関東地方会記念大会

摘要

女性における虚血性心疾患の発症は，男性と比較しておおむね10年遅いといわれている.Framingham studyの結果では，閉経前の女性は同年代の男'性よりも明らかに心血管系疾患の発症率が低いが，閉経を境にその性差は消失する.そのような性差を説明するメカニズムの一つとしてェストロゲンの動脈機能への好影響が考えられている.女性ホルモンであるエストロゲンは，生殖機能や成長発達に必須なステロイドホルモンである力5',心血管系，脳神経組織，骨組織などさまざまな臓器で多彩な生理作用を持つ.エストロゲンの作用は血管内皮細胞や血管平滑筋にも発現しているエストロゲン受容体（ER-alpha beta)を介した分子制御によりなされ，血管機能や脂質代謝に改善をもたらすことで抗動脈硬化作用を発揮する.エストロゲンは血管内皮細胞において一酸化窒素合成酵素（eNOS)を活性化させ，血管弛緩物質であるNOの放出を促進することで血管拡張に働く.このようなエスト口ゲンのeNOS活性化による血管拡張応答はエストロゲン受容体阻害剤やER-alpha の遺伝子欠損により阻害される.閉経後女性におけるエストロゲン補充療法は，血中NO濃度を上昇させ，内皮機能の指標である虚血解放後の血管拡張応答（FMD)は増大する.ちなみに，持久的トレーニングは血管内皮機能を向上させるカ气運動性無月経の若齢女性アスリート（長期のエストロゲン欠乏状態）では，持久的トレーニングを行つているにも関わらず，座業的な同年代女性よりもこの機能が低下している.このような血管内皮機能への好影響に加えて，エストロ·ゲンは血管平滑筋のカルシウムイオン流入を抑制することにより，血管平滑筋を直接的に弛緩させる. 超音波法や脈波伝播速度より評価した動脈硬化指数は，閉経前女性では同年代の男性よりも低値であるとする報告が多い.また，閉経後女性におけるエストロゲン補充により動脈硬化指数は低下する（プロゲスチンとの併用では効果がないとするものが多い）.'加えて，我々は，若齢女性において，月経周期による卵巣ホルモンレベルの変動に依存して頸動脈進展性が明らかに変化すること（最大23%の差) を報告している.