細胞内タンパク質動態と細胞応答の1細胞同時計測が明らかにする 大腸菌の情報伝達

摘要

大腸菌は小さな単細胞生物にも関わらず.個々の 細胞が走化性システムという情報伝達システムを用 いて環境中を探索する.つまり大腸菌は高等生物と 同様に，高度な環境センシング能，情報処理能力， 情報伝達機能，運動能（べh毛モーター）を有して おり，これらを巧みに駆動して目的地へ到達する（図 1A).従来の研究の多くは.細胞の行動（遊泳）の 解析，走化性を担う細胞内の生体分子の同定，それらの機能解析や相互作用解析に焦点が当てられ，そ れぞれ個別の実験で調べられたり，試験管のような 均一かつ安定した条件で実験されてきた.しかし細 胞内は試験管内のような均一な環境ではなく，また 同一環境で育った細胞でも，それぞれの細胞ではタ ンパク質の発現量などが異なるため，試験管内で得 られた実験結果をそのまま生きた細胞に当てはめる ことは難しい.我々は大腸菌の走化性システムを， システムを担うタンパク質の生細胞内での動態と細 胞の応答を，1細胞レベルで，かつ同時に計測し， それらの定量的情報に基づきシステムを理解するこ とを目指してきた.ここでは，我々の最近の研究結 果を基に，刺激のない安定した環境下における大腸 菌の情報伝達の原理について考察したい.