『中国農村の貧困克服と環境再生』－寧夏回族自治区からの報告－

摘要

本書は、島根大学と寧夏大学（中国：寧夏回族自治区）の20年にわたる学術交流を記念して出版されたものである。 近年、中国の環境問題への注目がなされて久しく、日中の学術界においても共同で問題に取り組もうとする気運が高まってきた。 従来の研究交流をベースに刊行された図書では、中国で深刻化している個別の環境問題に対して、日本からの技術·制度の導入や適用可能性を論ずるものが日立っていた1。 これに対して本書は、主として「退耕還林·遺草」という、急傾斜地に切り開かれた耕地や荒地に植樹·植草して、森林植皮による水源滴養·土壌流出防止機能等を回復させる政策が、当地の農村社会にどのような影響を与えているのかを、人文·社会科学的な観点から広く考察するというスタンスを取っている。したがって、単に中国に対して技術·制度的な解決策を提示するのみならず、当地の社会構造に根差して総合的に問題を捉える「地域研究」としても充実したものとなっている2。 このアプローチを可能としている一つの理由は、島根大学、寧夏大学双方の執筆者の多くが、歴史学、経済学、社会学、文化人類学、比較政策研究といった学問的背景を有していることであろう。