特集号「中部山岳域の天候?気候変化を探る」序説

摘要

山岳域は生態系を育み人間生活にとって欠かせない水資源を供給している。近年，地球温暖化に伴う山岳環境の変貌が，山岳域に依存するさまざまなシステムを脅かすことが懸念されている （渡辺?上野，2017）。とくに海外では，高標高域ほど地上気温の昇温が大きいという指摘があり (Mountain Research Initiative EDW Working Group, 2015),気候変動に伴う山岳雪氷圏の縮小，地形の改変，生態系の変化などに関する実態解明やモデル研究が進hでいる。山岳研究の成果を共有し今後の課題を議論する国際会合が5年に一度開催され（上野?渡辺，2016），2019年には International Mountain Conference (IMC)と題した新たな国際会議が計画されている。このょうな研究動向を日本と比較したとき，日本の山岳研究を語るうえで欠かせない気候場が世界的には非常に特異であることに気がっく。そもそも日本の気候は海洋性で，アジアモンス一ンの影響が強い。脊梁山脈は太平洋側，内陸，日本海側の気候特性を規定する大きな役割を担い，一方で大都市が位置する平野部や盆地の気象は周辺山岳域の熱力学的影響を大きく受けている。気候の標高依存性は，例えば低緯度の屋久島と高緯度の大雪山では大きく異なり，一概に経験的関数で規定することができない。さらに，近年は極端な異常気象が多くの自然災害を招いており，そのほとhどがいわゆる山麓の“中山間地域”で発生している。地球温暖化が進行するなかで，日本列島をとりまく環境場としての気候系もさまざまに変調し，地上の気温が一概に昇温するとは限らない。海外の研究者から"温暖化の影響は日本の山岳域でも現れていますょね？"と聞かれたときに，返答に苦慮する理由の一っに，このょうな日本の天候に対する山岳の影響の多様性がある。