高速クラスターイオンの発生と研究展開

摘要

n個の単原子イオンを一定の速度で加速し、標的試料の同じ場所に照射した場合と、これと同じ速度で、同一原子がn個結合したものを照射した場合を比較する。前者は原子を1個ずつ同じ場所に照射し、後者は原子n個を“まとめて同時に”照射したことになる。照射領域に付与するトータルのエネルギーは同じでも、両者の衝突プロセスは大きく異なる。原子を“まとめて同時に”照射できるクラスターイオンビームは、通常の単原子イオンビームでは得られない照射効果や物理現象を発現する。これが、クラスターイオンビームが新しい放射線源と位置づけられる理由である。現在では、静電加速器の進歩によってC60（フラーレン）までのサイズのクラスターイオンをMeV領域のエネルギー（高速）に加速することができるようになった。高速クラスターイオンは、エネルギーやイオン種だけではなく、サイズや構造などでもその照射効果が多様に変化すると考えられることから、新しい放射線源としてめ幅広い可能性を有している。