高エネルギー素粒子を利用した巨大構造物の透かし撮り

摘要

人類が「透かし撮り」と深い係わり合いを持つようになったのは、今から100年以上も前、1895年のレントゲンによるX線の発見以来のことである。それまでは認識されていなかった、未知のものであるということで、「X線」と名づけられた。1930年ごろから宇宙線の観測実験が開始され、X線の発見後50年の間に100を超える数々の新粒子が発見された。これらの粒子の中には驚くほど貫通力の強いものがあり、素粒子の測定実験は地下へ地下へと場所を移していった。観測深度が深くなるにつれて、宇宙線に含まれる様々な粒子が地中に吸収されるようになるため、観測される粒子の数が減る。しかし、地下100mになっても、ミュオンだけはあまり数が減らなかった。X線の透過力をはるかに超える新プローブの発見である。1950年代には地下にミュオン検出装置を置いて、その上にある岩盤の厚みを調べる実験が行われた。地中に吸収されるミュオンの数の違いから、岩盤の厚さを推定しようというのである。ミュオンによる透かし撮りの初の試みといえよう。このミュオンの透過性を利用して、巨大構造物の「レントゲン写真」(ミューオグラフィー)撮影を試みたのがアメリカの物理学者ルイ?アルバレである。1967年、彼らはエジプトのピラミッド内部にミュオン検出器を設置して、斜め方向から飛来するミュオンの数を測定した。