分子性液体における液体·液体相転移現象

摘要

物質には，大きく分けると気体，液体，固体の3つの状態が存在する．これらの状態はいうまでもなく熱エネルギーと相互作用エネルギーのバランスで決まる．気体においては前者が，固体においては後者が支配的となる．これらの状態の物理的記述は，気体では乱雑性?一様性のた軌固体では対称性?周期性のため，著しく容易になり，気体?固体の性質は現在ではかなり深く理解されている．一方液体は，その振舞の多くは理解されているものの，いくつかの根本的未解決問題を抱えている．代表的な例を挙げると，本稿で議論する液体液体相転移現象（以下，液液転移と略す），ガラス転移現象水に代表されるいくつかの液体の熱力学異常，局などが挙げられる．一般に，単一原子種あるいは単一分子種からなる物質の気体状態，液体状態はそれぞれ1つしかないユニークな状態であると考えられてきた．液体状態が複数存在しないと広く考えられている背景には，これらの構造が，気体と同様の完全乱雑一様状態（無限の並進?回転対称性をもつ）であるという常識がある．一方固体の場合には，例えば，炭素の結晶状態としてのグラファイトとダイアモンド構造のように，相互作用の複雑性を反映して複数の結晶状態が存在することが広く知られている．