アリの行動シミュレータ構築と生態の理解

摘要

群れは自律分散系であり，群れを構成する個体は大域的情報を持たず，環境中の局所情報のみで行動する．個体間の局所的な相互作用により，大域的な群れの振舞いが創発される．また，群れはその内部の変化に適応する特性であるロバストネスと外部の変化に適応する特性である柔軟性を有する．自然界で群れを形成する生物の一例としてアリや蜂などの社会性昆虫が知られている．特に，アリは他個体との接触による直接的なコミュニュケーションだけでなくフェロモンを用いて環境を介した間接的なコミュニュケーションをすることで高度な群行動を実現し，複雑な秩序をもった社会を形成することが知られている．この群知能の本質を解明しようとする研究にはおもに2つのアプローチがある．生物の観察により解明しようとする生物学的アプローチと群行動を大胆に近似した単純な数式モデルで記述し数理的に解明しようとする数理生物学的アプローチである．本解説では，複雑な群行動をできるだけ忠実に表現できる数式モデルを導出し，種々のパラメータを変化させ現象を予測して，群知能の本質に迫るアプローチに関する研究を紹介する．