鉄の結晶構造解明の歴史（後編）

摘要

オスモンが1885年に鉄の同素体としてα鉄とβ鉄の存在を仮説で提示してから，β鉄論争が始まつた．その後，多くの科学者が参加し，1921～1924年にウェストグレンが当時の最新鋭の測定手法であるX線回折を鉄と鋼に応用し，β鉄とα鉄は同じ結晶構造である手とを明らかにして，長い論争に終止符が打たれた．この論争を通じて，鉄の構造が温度に依存してα鉄(BCC)，γ鉄(FCC)と変化すること，鋼の強度に影響を及ぼす炭素や鉄炭化物の役割，他の成分による鋼の合金化，鉄の磁性や焼入れ現象など現在における鉄冶金科学の基礎の一部が築かれていった．上述のように，β鉄の実態解明を通して鉄の結晶構造解明の変遷史は，多くの研究者の絶え間ない論争と他分野の新しい科学技術の登場が，科学技術の発展を押し進めていつたことを示している．本小論から得た示唆をもとに，研究者と開発をマネジメントする人々が，新しい材料の発見や技術の開発に積極的にトライすることを期待したい．