大強度パルス中性子利用による粉末回折法の未来について

摘要

SPring-8での研究例を参考に，J-PARCでの中性粉末回折法の可能性について考えてみた.J-PARCの能力から考えて，中性子粉末回折法が飛躍的に発展することは間違いないものと思う．それが，材料研究に大きなインパクトを与えることも，想定されることである．本文では，「量的拡大のもたらす効果を過小評価することはできない」と述べたが，これは主に材料研究の立場である．J-PARCからリートヴュルト解析を超える研究が出てこなければ，やはり寂しいものがある．スクッテルダイトCoSb_3の研究を紹介したのも，そのような思いからである．もし，120倍の露光時間をかけないデータを使用してCoSb_3の構造研究をしたのならば，たとえMEMを使っても，化学結合の情報を得ることはできない．なぜなら，短時間で測定したデータには，そもそもそのような詳細な構造情報が含まれていないからである．化学結合の情報は，それぞれの結晶構造因子を正確に測定することにより得られるのである．もともとの実験データに化学結合の情報がなければ，どのような解析を行っても化学結合の様子を知ることはできない．微量元素の振動状態の情報を観測するには，きわめて精度の高い実験が要求されることは，想像に醜くない．しかし，試料の状態さえ良ければ，観測可能と思う．