イオンチヤネルを介した硫化水素の細胞機能調節作用

摘要

硫化水素(H_2S)は腐卵臭をもっ火山性の有毒 ガスとしてよく知られ，硫黄泉の温泉施設での中 毒事故のニュースは記憶に新しいところである. そのため環境中に存在する危険な毒ガスのイメ 一 ジがすっかり定着しているが，H_2Sはヒトを含め 哺乳類の体内でも産生されている.その主要な産 生源の一っは口腔内や腸内に生息する細菌だが， もう一っは哺乳類細胞そのものである.哺乳類細 胞ではL-システインから酵素反応によってH_2S が産生される主要な経路が3っあり（図1),シス タチ才ニンβシンテース（CBS: cystathionine β -synthase),シスタチオニンγ-ライエース（CSE: cystathionine γ -lyase)および3-メルカプトピル ビン酸硫黄転移酵素（3MST: 3-mercaptopyruvate sulfurtransferase)がそれぞれの経路でH_2S産生酵 素の役割を果たしている.どの酵素がH_2S産 生を担っているのかは，臓器や細胞の種類によっ て異なる.例えば我々の研究室でも，末梢神経系 のニューロンでは3MSTによってH_2Sが産生され るが，中枢神経系でのH_2S産生はニューロンで はなく主にアストロサイトで行われ，その中心と なる酵素はCBSであることを報告している.