薬力学·薬物動態学に関する遺伝情報を用いた統合失調症治療について

摘要

要約：遺伝情報を用いて精神疾患に対する薬物治療の効果や副作用を予測する場合，何を評価の指標とするかを含めて，遺伝情報以外に検討しなければいけないことは多数存在する.我々はこれまで，うつ病に対するfluvoxamineの治療効果および副作用を予測する遺伝情報を探索する中で，血中濃度などの薬物動態学的因子と薬物作用部位などの薬力学的因子を同時に解析することが重要であることを示してきた.例えば，fluvoxamineによるうつ病治療において寬解を予測する濃度が存在することを示したが，こうした遺伝情報以外の因子を十分に検討しないと，遺伝情報を用いた効果予測は難しくなる可能性があると考えられる.一方，統合失調症の薬物療法においては，事態はより複雑である.うつ病薬物治療のゴールが寬解というコンセンサスは得られているように思われるが，統合失調症の薬物治療ゴールは明確ではなく ，遺伝情報を用いた効果予測研究も十分に行われているとはいえない状況である.そこで，当施設では，近年問題となっている抗精神病薬による糖脂質代謝異常，QT 延長作用，高プロラクチン血症などに焦点をあて，副作用予測研究を行っている.こうした副作用は定量化できるので，効果研究と比べて遺伝情報との関連を検討しやすいという利点がある.しかし，研究を進める中で，糖脂質代謝異常に性差が存在すること，QT間隔には日内変動があり抗精神病薬は特に夜間のQT間隔を延長させること，抗精神病薬投与後のプロラクチンは一過性に上昇するが数週でまた低下することなどを見つけ出した. 我々は，副作用と遺伝情報の関連を検討する場合，てうした副作用の特性を十分理解した上で解析を行わないと， 遺伝情報を十分に生かせない可能性があると考えている.